SIAFスクール

教育関係者コミュニティ

第4回教育喫茶
「アート×教育×テクノロジーの実践と今後」

開幕前から札幌国際芸術祭2024(略称:SIAF2024)を楽しむ「SIAFスクール」では、様々なプログラムを実施しています。今回は、教育とアートに関する課題や可能性を話し合うコミュニティ「教育喫茶」の様子をご紹介します。

9月8日(金)、札幌市資料館2階SIAFプロジェクトルームにて第4回「教育喫茶」を開催しました。この日は、学校の先生や、教育文化施設などでプログラム運営に携わっている方など、オンラインと現地参加の方合わせて11名に集まっていただきました。

今回店長(講師)を務めてくださったのは、(*1) 札幌文化芸術交流センター SCARTS(以下SCARTSと記載)の樋泉綾子さんと(*2) 北海道大学 CoSTEP(以下CoSTEPと記載)の朴炫貞(パク・ヒョンジョン)さんのお二人です。

写真左側がSCARTSの樋泉さん、右側がCoSTEPの朴さん

SCARTSとCoSTEPは、教育普及プログラムの一環として、これまで中高生など若い世代を対象に、アートとテクノロジーの関わりをテーマに、アーティストや研究者とSCARTS、そしてワークショップの参加者が共に創造の「場」をつくっていくプログラム開発を共同で行ってきました。
今回の教育喫茶は、新しい教育の考え方として注目されている(*3) STEAM教育の実例として、これまでのSCARTS×CoSTEPの共同プログラムの取り組みを紹介するほか、現在、学校教育で重視されている、自ら問いを立て、その解決に向けて探究活動を行う「探究学習」とアートとの接続の可能性について考える場として実施しました。

事例紹介

はじめにSCARTSの樋泉さんより過去の事例をご紹介いただきました。

・CoSTEP×SCARTS×札幌の高校生たち「バイオの大きさ/未来の物語」(2021年)

撮影:北川陽稔

「バイオテクノロジー」をテーマに、2名の研究者によるレクチャーやフィールドワークを通して、身近な世界に対する多様な視点にふれました。さらに「他者の記憶」をモチーフに絵画制作をするアーティストの久野志乃さんの制作手法を参照しながら、ワークショップのプロセスのなかで生まれた関心について思考を深め、未来の世界を想像してテキストに起こし、それぞれの「物語」として表現する3日間のプログラムを実施しました。

・大和田 俊×SCARTS×CoSTEP×札幌の高校生たち「地球をかたづける」(2021年)

撮影:百頭たけし

アーティストの大和田 俊さんを講師に迎え「地球をかたづける」をテーマに、2億7千万年前の生物の化石を使った美術作品《unearth》をとりあげ、「かたづける」ことについて考察しました。参加者たちは作品の鑑賞後、実際に作品を分解したり、ゲスト講師からリサイクルや再生可能エネルギーについてのレクチャーを受けました。こうしてアーティストや専門家たちのさまざまな知見に触れ、彼らとの対話を重ね、作品を「かたづける」ためのアイデアを出し合いました。

・SCARTS×CoSTEPアート&サイエンスワークショップ「漂う環境」(2023年)

撮影:クスミエリカ

アーティストの上村洋一さんを講師に迎え、フィールドレコーディング(屋外で音を録音する)に取り組み、北海道大学構内での自然音や人工音など、「音」を通して身の回りの世界について改めて考えるワークショップを実施しました。さらに、ゲスト講師による環境学のレクチャーを行い、自然と人工との共生にまで思考を深め、「音」を基点に札幌の冬、世界の捉え方を再発見しました。

これらのプログラムでは、“何かモノを完成させるというよりも、思考のプロセスを大切にしている”のだそうです。

なぜこういった取り組みをしているのか

札幌市内では未就学児や小学生向けのプログラムは多いものの、中高生が対象のものはあまりないそうです。また日頃SCARTSでは勉強をしにフリースペースに立ち寄る高校生が多いため、そういった若い世代がアーティストや研究者などの学校生活では出会えない大人たちと交流したり、ワークショップに参加する経験を通して将来に対する視野が広がれば、という想いで立ち上げられたそうです。

アーティストの視点でこのワークショップをどうみるか

続いて、CoSTEP 特任講師であり、アーティストでもある朴さんに、上記事例についてアーティストの視点でお話しいただきました。朴さんは8年前から北海道大学CoSTEPに在籍し、アートを軸にした科学技術コミュニケーションの研究や科学とアートを横断したプロジェクトの企画運営・作品制作を行っています。

SCARTSとCoSTEPのプログラムでは、現代アートを用いることが、様々なテーマへの切り口や問いかけのきっかけになるとしています。これらのワークショップはアーティスト自身にもエネルギーが必要で、終わる頃にはへとへとになるほど熱く向き合うそうです。

これらのプログラムに取り組むことは、アーティストにとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?3つご紹介いただきました。

  1. 作品を軸にテーマを広げる
    事例にあがった大和田さんのワークショップでは、2億7千年前の生物の化石である石灰岩に酸を垂らし、それが溶けて二酸化炭素が発生する音を聴かせる作品《unearth》を実際に鑑賞する具体的な体験と、「溶けるって何?存在しなくなるってどういうこと?」など抽象的に考えるといった、具体と抽象の二つを行き来しながらアーティストがいつも行っている手法とは違う形で自分のテーマを広げることができます。
  2. 研究者と話し合う
    「何がゴミだと思うか?」というようなことを研究者と対話することで、多様な意見や解釈を体験でき、研究者とアーティスト双方が気づきを得ることができます。
  3. 学生との交流
    若い世代に教えてもらうことも多く、学び合えるような場になっています。

    同じ目的を持って集まっていても、わかっていると思っていたことがわからなくなったり、体験する前と比べて全く違う視点になったり、正解がないのが面白く、そうした気づきがあるのが大事な瞬間、と朴さんは言います。

    参加した学生たちは大人の想像以上にテーマについて語ったり、熱量高く取り組み、「思考の柔軟性や好奇心・教養が身につく」と学生たちの満足度も高いそうです。中には、アートやデザインに興味があっても学校で相談できる人がいないと悩んでいた学生が、このプログラムに参加して進路が明確になったという事例もあるそうです。
教育喫茶の参加者から

教育喫茶の参加者からは「学校では”正解”や”範囲内”で留まろうとする子どもたちが多い印象。壊していく気づきを与えるきっかけを作っていきたい」「AIには置き換えられない活動だと思った」「子どもたちにとっても学校以外に興味があることで繋がることができるサードプレイスとなり得るいい機会だと思った」「自分自身が一方向の考え方にとらわれない思考をして行きたいと思った」など教育現場での実践から、自身の考え方についての気づきなど様々なコメントが寄せられました。

オンライン参加者からのコメント

このように第4回「教育喫茶」も大盛況のうちに閉店となりました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

「教育喫茶」では、教育に関わる先生や学生、アーティストなどが集い、色々なテーマに基いた、実験的なプログラムを作ったり、体験したりする中で、学校と芸術祭が「これからの教育」を共に考え創造するプラットフォームとなることを目指しています。

興味のある方、参加希望の方は事務局までお問い合わせください。
お問い合わせ先:operation@siaf.jp


*1 札幌文化芸術交流センター SCARTS

SCARTSは、2018年にオープンした札幌市中心部にあるアートセンターです。札幌文化芸術劇場 hitaru、札幌市図書・情報館と共に札幌市民交流プラザを構成し、札幌における文化芸術の拠点となっています。市民の創造的な活動をサポートし、札幌の文化芸術を支えていくために、「あたらしい表現の可能性をひらく」「すべての人に開かれたアートとの出会いをつくる」「一人ひとりの創造性をささえる」という3つのミッションを定め、活動をしています。
https://www.sapporo-community-plaza.jp/scarts.php

*2 北海道大学 CoSTEP

北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンターに設置されている、科学技術コミュニケーション教育研究部門 CoSTEP(Communication in Science & Technology Education & Research Program; コーステップ)は、 科学技術コミュニケーションに取り組む、北海道大学の教育・実践・研究組織です。科学技術コミュニケーションの教育・研究・実践を、互いに有機的に関連づけつつ、学内外の機関と積極的に連携を進め、科学技術コミュニケーション活動を担う人材養成を行なっています。
https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/

*3 STEAM教育

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。

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